ブームは続くか? 終わるか? すごい金額で取引され、(2200万)等、Pop Landも登場したラブブの今後は?

ラブブ(Labubu)現象を徹底分析:ブームは続くのか?

はじめに:Labubuとは? なぜ世界は熱狂するのか

フワフワした体に9本の鋭い歯。一見すると「醜いけど可愛い(ugly-cute)」不思議な魅力を持つモンスター、それがLabubu(ラブブ)です。その愛嬌のある外見とは裏腹に、一体のフィギュアが数千万円という驚異的な価格で取引される現実があります。このギャップこそが、世界中のコレクターを惹きつけてやまないLabubu現象の核心と言えるでしょう。

この現象の背景には、二人の重要人物がいます。一人は、香港生まれオランダ育ちのイラストレーター、Kasing Lung(カシン・ロン)氏。彼の作品は、幼少期に親しんだ北欧の神話や民間伝承に深く影響されており、Labubuの芸術的な生みの親です。

もう一人は、Wang Ning(ワン・ニン)氏が設立した玩具会社、Pop Mart(ポップマート)です。同社は、巧みなブラインドボックス戦略を使い、Lung氏のアート作品を世界的なブームへと変貌させました。

この記事では、Labubuを巡る熱狂を解き明かすため、以下の4つの疑問に答えていきます。なぜ特定のLabubuはこれほど高額になるのか? これまでどれほどの種類が登場したのか? 現在の人気は? そして、このブームの未来はどうなるのでしょうか?

1. なぜ高額に? 数千万円の値札が付く理由

この章では、なぜ特定のLabubuアイテムが驚くような高値で取引されるのか、その理由を探っていきます。

1.1 頂点:玩具がファインアートになった瞬間

Labubuの市場価値が頂点に達した象徴的な出来事が、2025年6月に北京で開催されたオークションです。このオークションで、世界に一体しか存在しない人間サイズのミントグリーンのLabubuフィギュアが、記録的な108万元(約2200万円)で落札されました。この取引は広く報道され、Labubuが単なる玩具ではなく、高級なコレクターズアイテムとしての地位を確立した瞬間となりました。

これは、もはや玩具市場だけの出来事ではありません。KAWSや村上隆の作品のように、Labubuを現代アートの仲間入りをさせる戦略的な動きと分析できます。この高額落札は、ブランド全体に強力な「ハロー効果(後光効果)」をもたらし、手頃な価格のブラインドボックスを含むすべての製品の価値イメージを引き上げています。

この数千万円という価格は、ブランドの価値に非常に高い上限を設定する「アンカー(錨)」として機能します。これにより、比較対象となる他の高額商品(例えば「Mega」エディションの約15万円)が妥当に感じられ、ブラインドボックスの数千円という価格が、まるでハイアートの世界への「入場券」のように感じられるのです。

1.2 希少性を高める「コラボレーション」

限定版のコラボレーションモデルは、二次市場(転売市場)で大きなプレミアム価格がつく傾向があります。その一例として、VANSとのコラボモデルは、約1万ドル(約130万円以上)近い価格で取引された記録があります。その他にも、コカ・コーラやワンピースといった世界的に有名なブランドとのコラボレーションも展開されています。

Labubu中国発「ラブブ」の希少モデル、150万円以上での落札多数 優良な投資先の可能性も?

POP MART THE MONSTERS LABUBU VANS ポップマート ラブブ

※現在は、10万前後で取引される事が多くなっています。

これらのコラボは、単に新しいデザインを生み出すだけでなく、Labubuブランドのファン層を広げる戦略でもあります。アートトイのファンだけでなく、ファッションやポップカルチャーのファンにもアピールすることで、より高い価格設定を正当化しているのです。

1.3 ブームを加速させる「シークレット」の存在

ブラインドボックスモデルには、「シークレット」または「チェイス」と呼ばれる、出現確率の低い希少なフィギュアが含まれています。あるシリーズでは、その出現確率が72分の1などと明記されていることもあります。これらのフィギュアは高い再販価値を持ち、例えば「Big into Energy」シリーズの虹色の歯を持つ灰色のシークレットLabubuは、約500ドル(約7万5千円)で販売されています。

この「シークレット」の存在こそが、Labubu集めをゲームのように面白くしているエンジンです。これは、心理学における「間欠強化(たまに当たりが出る)」の原理を利用しており、箱を開ける行為をギャンブルに似た興奮体験に変えます。これにより、活気に満ちた二次市場が形成されるのです。

興味深いことに、「Lafufu」と呼ばれる偽造品の存在も、逆説的にブランドの強さを示しています。偽造品が蔓延するほど、正規品が持つ市場価値が本物であることの証明とも言えるからです。

カテゴリー具体例報告価格(日本円換算)主な価値の源泉
一点物のアート作品1.2m ミントグリーンのフィギュア約22,000,000円世界に一つだけの価値
限定コラボレーションVANS コラボレーションモデル約1,330,000円ブランド力と希少性
シークレットフィギュア「Big into Energy」シークレット約75,000円低い出現確率と収集欲
通常フィギュア(二次市場)「ZIMOMO I FOUND YOU」約35,000円人気の高さ、需要

2. どれだけの種類が? 300種を超えるバリエーション

この章では、Labubuの製品ラインがどれほどの規模なのか、その戦略的な背景とあわせて見ていきます。

2.1 300種類を超えるバリエーション

クリエーターのKasing Lung氏は、Labubuの誕生以来、300種類以上の異なるバージョンをリリースしたと言われています。これには、色、形、サイズ、テーマのバリエーションが含まれます。この膨大な数はランダムではなく、計算された戦略です。多様なバリエーションは、コレクターの「探求」が決して終わらないことを保証し、新しいシリーズが発表されるたびに継続的な関心を引きつけています。

2.2 戦略的な製品ラインナップ

製品ラインは、いくつかの戦略的な柱に分類できます。

  • 主力シリーズ(ぬいぐるみペンダント): 「Exciting Macaron」(ブームの火付け役)、「Have a Seat」、「Big into Energy」などは最も人気が高く、頻繁に完売するラインです。
  • テーマ別シリーズ: 「Fall in Wild」、「Lazy Yoga」、「Forest Secret Base」など、特定のテーマに基づいたシリーズです。
  • IPコラボレーション: 「コカ・コーラ」、「ワンピース」など、他の有名IPとの共同企画です。
  • 製品の多様化: IPはフィギュアにとどまらず、バッグ、フォンチャーム、タンブラー、さらにはワイヤレス充電器にまで及んでいます。

この多様なポートフォリオは、市場を細かく分析した結果と言えます。中核となるぬいぐるみペンダントは、ブームを生み出す「入り口」となる製品です。テーマ別シリーズは特定のファンの心をつかみ、コラボは新たなファン層を引き込みます。そして、様々な商品はLabubuブランドをファンの日常生活に溶け込ませ、単なるコレクティブルから「ライフスタイルブランド」へと進化させているのです。

3. 人気は加熱? それとも低迷? ブームの現状分析

この章では、現在のブームがまだ続いているのか、それとも成熟し、落ち着き始めているのかを分析します。

3.1 「加熱」している証拠:経済的・文化的な広がり

Pop Martの財務報告は、その勢いを明確に示しています。

  • 財務データ: Labubuを含む「The Monsters」IPは、2024年に30億元(約630億円)の収益を上げ、前年比726.6%という驚異的な増加を記録しました。特に国際的な成長が著しく、北米市場では2025年上半期に1,142%を超える成長を見せています。
  • 文化データ: Labubuは玩具の領域を超え、Googleのトレンドレポートにおいて、2025年のハロウィンコスチュームとして総合7位にランクインしました。タイでは幸運のお守りとして受け入れられるなど、その文化的影響力は世界中に及んでいます。

これらの確かなデータは、ブランドが特に国際市場において急成長段階にあることを示しています。

3.2 「沈静化」の兆候:成熟と市場の変化

一方で、市場が新たな段階に入りつつあることを示す兆候も見られます。

  • 市場データ: Pop Martの株価は大きな変動を見せており、投資家の間でブームの持続性への懸念が高まっているとの報告もあります。また、Pop Martは需要に応えるために意図的に生産を増やしており、これにより一般品の二次市場価格は下落傾向にあるようです。
  • 消費者感情データ: オンラインのコレクターコミュニティでは、「ブームは去ったのか」という議論も行われており、過剰な供給と急速なリリースが「燃え尽き」の原因として挙げられています。Googleトレンドの検索数も、ピークは2025年夏であり、爆発的な成長ではなく、周期的なパターンに落ち着きつつあることが示唆されています。

これらのデータは、市場の崩壊ではなく「移行期」にあることを示していると考えられます。希少性によって牽引された初期の爆発的な成長は、企業が規模を拡大するにつれて自然に変化しています。市場は投機的な熱狂から、より安定的なコレクティブル市場へと成熟しつつあるのです。

つまり、一般のLabubuフィギュアの供給が増えるにつれて、投機的な価値は低下します。しかし、このプロセスは同時に、シークレット、限定コラボ、アーティストのオリジナル作品といった、*本当に*希少なアイテムの価値を強化する可能性があります。ブームは終わったのではなく、より洗練された形へと「進化」している最中なのかもしれません。

4. 今後の予想:ブームは続くのか?

この章では、これまでの分析をまとめ、今後のLabubuブームがどうなっていくのかを予測します。

4.1 Pop Martの戦略:一過性の流行で終わらせないために

Pop Martは、ブラインドボックスモデルをはるかに超えた事業拡大を積極的に進めています。北京にはブランドのテーマパーク「Pop Land」を開園し、モバイルゲームをリリースし、多岐にわたるライフスタイル商品を展開しています。これは、IP(知的財産)の寿命を延ばすための意図的な戦略です。

POPLAND北京でお気に入りのポップマートのキャラクターと一緒に楽しい時間を過ごしましょう!

この点が、過去のコレクティブルブーム(例えば、収集品そのものに依存していたビーニーベイビーズ)との決定的な違いです。Pop Martは「エコシステム(生態系)」を構築しているのです。玩具は、より大きなエンターテインメントと体験の世界への入り口に過ぎません。テーマパークを建設することで、ディズニーやサンリオが持つような文化的な永続性を目指しています。

4.2 市場の追い風:世界的な「アートトイ」ブーム

世界のアートトイ市場は、今後大規模な成長が見込まれています。様々なレポートが、2033年までに市場規模が1660億ドル(約25兆円)を超え、高い成長率で推移すると予測しています。

Labubuは、この大きなトレンドの最前線にいます。背景には以下のような現代的な消費行動があります。

  • 「キダルト」経済: 大人が玩具市場で大きな影響力を持ち、ノスタルジアや趣味を求めている傾向。
  • コレクティブルへの渇望: SNSが収集品集めを煽り、それらを自己表現の一形態に変えていること。
  • パーソナライズ化: Labubuフィギュアを着せ替えたりカスタマイズしたりする行為が、個性を求める現代人の欲求に応えていること。

4.3 結論:ブームは「消滅」ではなく「進化」する

これらを総合すると、Labubuの未来は次のように予測できます。

  • 「バブル崩壊」は考えにくい: Labubuは、明確な長期ビジョンを持つ収益性の高い上場企業(Pop Mart)に支えられています。
  • 「熱狂の是正」は起こっている: 大量生産された一般品に対する極端な転売価格は、すでに是正されつつあります。「どのLabubuでも儲かる」という時期は終わりを告げているでしょう。
  • 予測される結果: Labubu現象は「進化」するでしょう。初期の熱狂は沈静化し、より成熟し、安定的で、永続的なグローバルブランドへと変わっていく可能性が高いです。それは、BE@RBRICK(ベアブリック)のようなブランドがたどった道筋に似ているかもしれません。つまり、真剣なコレクター向けの高価値なアート作品と、大規模なファンのためのアクセスしやすい製品群の両方を提供する形です。ブームは終わるのではなく、長期的なビジネスへと姿を変えている最中なのです。

おわりに:Labubuが示すもの

Labubuの成功は偶然ではありません。それは、アーティストKasing Lung氏の独創的なビジョン、Pop Martの効果的なマーケティング、ブラインドボックスの心理的な力、そしてグローバルなSNSの拡散力という、いくつかの要因が完璧に組み合わさった結果です。

Labubuは単なる人気商品を超え、現代の消費文化を映し出す鏡のような存在です。それは、クリエーターが生み出すIPの力、アートと商業の融合、そしてコミュニティ、遊び、集める喜びに対する私たちの根源的な欲求を反映しています。このブームが今後どう進化していくのか、注目する価値は十分にありそうです。